出産とアレクサンダー・テクニーク

私が第一子を出産したのは、アレクサンダー・テクニークのトレーニングを始めてから2年ほど経ったときでした。初産ということと、このようなテクニークを勉強していたこともあり、重力に逆らわない出来るだけ自然な形のお産をしたいと望んでいました。しかし、お産とは思う通りにはいかないものですね。第一子の出産は、結果的にかなりの難産になってしまいました。時間もかかり、母体のダメージも大きく、正直、出産直後はひどい状態でした。「もう二度と子供は産めないわ・・・。」と確信したほど、ヘトヘトの状態でした。しかし、やはり兄弟姉妹を持たせてあげたいと思い、二年後には第二子を妊娠しました。

 

ところが、つわりも過ぎ、日々お腹が大きくなるにつれて、一人目を妊娠している時にはなかった悩みが出てきました。それは、「出産に対する恐怖感」です。もちろん一人目の時も漠然とした不安はありましたが、今度はそんなものではなくて、もっと具体的な「恐怖感」が私を襲うようになっていたのです。まだまだ出産まで月日もあるのに、数ヶ月後にはまたあの痛みを越えなければならないと思うと、たちまち身体もこわばり、思考も止まってしまうような状態でした。この状態を何とかしなければ、このままお産を迎えるわけにはいかない・・・と日々感じていました。

 

ちょうど出産まで後4ヶ月という頃、アメリカ人のアレクサンダー・テクニークの先生であるキャシー・マデンさんが来日しました。キャシーは、かつてはバースコーディネーターという形でお産に関わるようなこともされていたそうで、かなりお産の経過などに詳しいとのことだったので、その時も個人レッスンを1時間予約しました。

 

レッスンでは、まずは大変だった前回の出産について振り返りました。キャシーは、ゆっくりと話を聞いてくれました。そして、次の出産に対しての恐怖心について相談しました。キャシーのアドバイスはとてもシンプルでした。恐怖感がやってきたとき、恐怖に支配されるのではなく、一息ついて、自分の使い方を考えつつ「次の出産は違ったものになるかもしれない。」と思う。本当にそれだけでした。日々の生活の中でふと恐怖心に襲われたら、あるいは実際に陣痛が始まったら、恐怖を感じるその度に、陣痛を感じるその度に「次の出産は違ったものになるかもしれない。」と思い、自分の方向性を再方向付ける(リダイレクト)し、気持ちを切り替えるのです。

 

恐怖心でいっぱいになっている時、明らかに思考は「後ろ向き」です。私の場合は、「出産」というものを過去の一度きりの経験に結びつけてとらえ、それが恐怖心を生み出していました。冷静に考えると、出産には様々な経過があり、特に2人目以降となると初産より楽な経過になることは、よくある話です。しかし、恐怖心を感じ、過去に体験した痛みを思い出し、身体がこわばってしまうと、もう何も建設的には考えられなくなってしまうのです。

 

レッスンでは、恐怖を感じたら、実際に陣痛が来たら・・・という仮定で、その度に繰り返し自分の身体に戻ってきて新しい考えに切り替えることを、キャシーと一緒に練習しました。もちろん、その都度アレクサンダー・テクニークの大原則である、「頭を楽に」というポイントも忘れずに。

 

そんなつもりはなかったのに、レッスンが始まって5分で私は泣いてしまいました。何かを思い出したのかもしれないし、キャシーの包み込む感じにほっとしたのかもしれません。レッスン中、泣いたり泣き止んだりを繰り返しながら、恐怖心が襲ってきたら、

陣痛が始まったら・・・とリダイレクトの練習をしました。そうすると、あらあら不思議。レッスンが終わった時には、何だか霧が晴れたように本当にスッキリ、爽快な気分になっていました。そして、心の底から「私はもう大丈夫。出産まで安心して過ごせる。」と思えました。

 

そして、それから4ヶ月後、私は自宅で破水してから3時間という超スピード安産で第二子を無事に出産しました。破水しても、陣痛が少しずつ強くなってきても、その瞬間に気持ちを切り替えることができ、夜中に一人でタクシーに乗って病院に向かい、冷静に行動することが出来ました。退院してすぐに、キャシーにすぐメールで報告しました。まだまだアレクサンダー・テクニークとはなんぞや、ということについて答えが全く見えていない頃ではありましたが、この経験を通して、アレクサンダー・テクニークがいかにシンプルで、本当に望んで使えばとてもパワフルであるということを深く体験したのでした。