アレクサンダー・テクニークを学び始めると、「頭を楽にしてから動いてみる」とか、「腕は実際はここから動く」、「股関節の位置は実はここなんだ」とか、多くの人が新しい体験や発見をします。レッスンの中で急に身体が軽く動かすことができたり、今まであった痛みを感じられなくなったりする体験をすることもあるでしょう。今まで思ってもみなかった場所に、関節があることに気付いてビックリ!なんてこともあるでしょう。
しかし、変化のための鍵は、レッスン中やワークショップやクラスに参加している時間にだけあるのではないのです。クラスなどで得た知識を、いかに日常に持ち込むか、自分の身体と動きにどれだけ当てはめられるかが変化のための大きな鍵となってきます。
私は、アレクサンダー・テクニークのレッスンを受け始めた当初は企業に勤めるいわゆるOLでした。朝から晩までパソコンに向かっていることがほとんどで、夕方にはぐったり・・・という毎日でした。アレクサンダーのレッスンを受け始めたものの、それを職場での自分の使い方に応用する・・・というような発想もあまりありませんでした。夕方になってぐったりしてから、「そういえば先日パソコンを使う時の自分の使い方を先生とやったっけな。」なんて思い出して、「ええっと、何だっけ?手をキーボードに伸ばす時に気をつけるんだっけな?ううん、こんなんで何か違いが出るのかしらん?信じがたい・・・。」というような怠けた生徒でした。あまり普段の自分に意識が向いていなかったので、それほど劇的な変化もありませんでした。
しかし、その後トレーニングコースに入学してから、職場を変え、アルバイトとして働き始めてからは、ずいぶん自分を観察できるようになりました。椅子に座るたび、椅子から立ち上がるたび、パソコンに手を伸ばすたび、電話に出るたびに、何となく自分のやっていることを観察する習慣がついていった気がします。
例えば病院の待ち合い室で名前を呼ばれて「はい。」と立ち上がる。突然の夕立に遭い、思わず駆け出す。雑踏で人とぶつかり、相手に怒鳴られてしまい平謝りする。そのような瞬間に、どのように立つか、どのように駆け出すか、あるいはどのように頭を下げるか、などといちいち考える人はあまりいないでしょう。たいていは、名前を呼ばれたことや、突然降ってきた雨、他人の怒声という刺激に自動的に反応して、何も考えずに立ち上がったり、駆け出したり、頭を下げたりすると思います。
しかし、当たり前のように無意識に行っている動作の最中に自分を観察する練習ができていると、今述べたような「突発的な事態」が起きた時にも、瞬間的に自分の使い方を考える「間」が生まれます。あるいは、その瞬間には思わず習慣的に反応してしまったとしても、「習慣的に反応した自分」そのものに瞬時に気付き、そこに余計な緊張が含まれていれば、「やめる」ことが出来ます。
私は自分の経験から、この「自分を観察する習慣」というのが、変化のための大変大きな要素であると確信しています。自分のことを冷静に観察することが出来るようになると、不思議と他の人の動きも客観的に見えるようになってきます。そうやって、このテクニークを人間関係などにも応用出来るようになってきます。その辺りはまたの機会に書きたいと思います。
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