私が通っていた学校では、フルタイムで集中的に学べば、約4年で卒業資格を取得できるのが通常でした。しかし、私の場合はトレーニングコースに入ってから、2人の子供を出産し、子育てと並行して少しずつトレーニングを進めたため、卒業までに10年の月日を要しました。10年の間には、子連れで学校に通った時期もありましたし、また、数年間は全く通えない時期もありました。
日々生活をしていると、私たちには色々な刺激がやってきます。動作に関して言えば、立つ、座る、子供を抱く、家事をする、パソコンのキーボードを打つ、などもその一つ一つが刺激です。また、育児疲れ、人間関係に関するトラブル、病気・・・・など、ネガティブなストレスも大きな刺激となります。しかし、私は時には「意識的に」、また時には「無意識的に」アレクサンダー氏の発見を思い出し、学校に行けない時期でも、このワークを使いながら生活していました。
「アレクサンダー・テクニークのアイデアを使いながら生活する」とは、具体的にはどういうことでしょうか?これに関してはいろいろな解釈があると思いますが、私の場合は、何かをやっている時の自分を、できるだけ客観的に観察することでした。
「今、私は○○をしながらも、自分はどんな状態にある?」
と、やっていること自体に100%意識を取られるのではなく、「自分の使い方」にも意識を向けながら、同時にやりたいこと、やらねばならないことをするのです。(後々、このことが、外からの刺激に対して自動的に持っていかれやすく、また深く処理をしてしまうHSP特有の生きづらさを軽減してくれることに繋がったのだと分かっていくのですが…。)
このような、自分の使い方に意識的でいながらも、何か他のことをやるという同時進行ができるようになったのは、実際にティーチングの練習をする段階に入った時でした。
教師になるためには、まず教えている時に自分のコンディションを整えるということを学びます。相手に何か教えるとしても、まずは「自分の面倒を見る」というトレーニングをするのです。つまり、「生徒さんと相対しながら」も、同時に「自分の面倒を見る」という「二つのことを同時に行う」ことができなければ、教える立場にはなれないということなのです。
最初は、ティーチングの練習をするために挙手する時でさえこんな感じです。「あ、あのお、ティーチングの練習をしたいんですけど…。」と、おずおずと手を挙げます。「本当にしたいんだかどうだか?本当はやめたいんでしょ?」と、自分でもツッコミを入れたくなるような状態ですね。そこには、「失敗したらどうしよう?何をすれば良いか分からない。恥をかきたくない。」というような、心配、恐れなどが渦巻いていて、意識はすっかりそちらに取られてしまっているわけですね。つまり、自分の使い方に意識を向けられている状態では全くないのです。特にHSPは、「間違ったことをしたくない」「ミスをしてはいけない」「恥ずかしい思いはしたくない」と、自分が思う正しさに囚われる傾向がありますね。
ところが、アレクサンダー・テクニークの世界では、そのような状態は、すぐさま先生に見破られてしまい、その時点で止められてしまいます。そして、お決まりの質問が来ます。
"What are you doing right now?"(今、あなたは何をやっていますか?)
と。そして、はっと我に返り、いかに自分の意識が外側に持っていかれていたかに気付くことになるのです。
つまり、アレクサンダー・テクニークを教えるには、教え始めようとするその段階で、すでに自分の使い方に意識的でなければいけないのです。そして、教え始めた後も、その自分への気付きをずっと持ち続けるということを学びます。そうやって、教えている間中、ずっと自分の面倒を見つつ、生徒さんとレッスンをしていくという「同時に二つのことをする」練習をしていくわけです。
このティーチングの練習をし始めてから、特に「同時に二つのことをする」「何かをやっている自分を同時に別の自分が観察している状態」ということがあり得るのだ、ということがわかり始めました。つまり、何かをしている最中でも、ある一定の意識の持ちかたをしていれば、習慣に入ることなく、体も心も緊張せずにやりたいことができるのだということが分かってきたのです。この発見が、まさに「瞬時に自分よりも相手の方に意識を持っていかれがちなHSPが自分を保つ方法」へと繋がっていくのです。
そのことが分かるようになって以来、日常生活の中でも、何かをやっている自分に意識的になり、不必要な緊張や習慣に気付いては手放し、どんどんと気付きが増えていきました。そして、その頃から、いろいろなことが変わり始めました。それは、他人との関係であったり、刺激に対する反応の仕方であったり。
「あれ?私ってもっと悩む体質じゃなかったっけ?」
「どうして、こんな大変な状態からこんなに簡単に抜けてきたんだろう?いつもだったら、何週間もかかってたよね?」
「今できたことって、昔の私には到底できなかったことだよね?」
というような感じのことがたくさん起こり始めました。
そのような体験から、アレクサンダー・テクニークは自分が楽に生きて行くためには欠かせないものとなり、自分と同じような悩みや問題を抱えている人にも役に立つのではないかと、強く思い始めたのです。
私が意識的に実践していたのは主に、「日常の中で、自分にどのような瞬間に、どのような意識を向けていくのか」ということでした。そして、そのような実践が、自分の変化を促してきたということが、だんだんと実感されるようになっていったのです。
通っていた教師養成スクールでは、自分のやりたいアクティビティー(動作など)をして、先生から手で触れてもらったり、体の仕組みに関する解剖学的なアドバイスを受けたりすることが主な学習内容でしたが、実際に自分に起きている変化は、クラスには参加していない日常に、その鍵があるような気がしていました。